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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)927号 判決 1968年6月27日

原告

滝本ハナ子

被告

吉田硝子工業株式会社

ほか一名

主文

一、被告吉田硝子工業株式会社は原告に対し、二、七〇〇、〇〇〇円および内金二、五五〇、〇〇〇円に対する昭和四三年四月二五日から、残金一五〇、〇〇〇円に対する同年六月二七日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告吉田硝子工業株式会社に対するその余の請求および被告田川康明に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用中、原告と被告吉田硝子工業株式会社間に生じた分はこれを四分し、その三を原告、その余を同被告の負担とし、原告と被告田川康明間に生じた分は原告の負担とする。

四、この判決一項は、かりに執行することができる。

事実及び理由

第一原告の申立て

被告らは各自原告に対し、一三、二三二、八九九円およびこれに対する昭和四三年四月二五日(損害発生後)から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

傷害交通事故発生

とき 昭和四〇年九月一七日午前九時四五分ごろ(台風二四号襲来下)

ところ 大阪市南区長堀橋筋二丁目四〇番地先路上

事故車 小型貨物自動車(大四ほ二五八九号)

運転者 被告田川

受傷者 原告(頭部外傷、右側頭部打撲傷兼血腫、両下肢右肘部打撲挫創)

態様 北から南に横断中の原告に西から東進してきた事故車が接触転倒させた。

第三争点

(原告の主張)

一、被告らの責任原因

(1) 被告会社(自賠法三条、民法七一五条)

被告会社は事故車を所有し自己の営業のために使用し運行の用に供していた。被告田川は被告会社の被用運転者であつて、その業務執行中後記過失により本件事故を起こした。

(2) 被告田川(民法七〇九条)

被告田川は交通ひんぱんな交差点付近を通過するにあたつては、とくに前方を注視し歩行者を認めたときはいつでも停車または回避するなどして事故を未然に防止する義務があるのにかかわらず、これを怠り漫然東進した過失により本件事故を起こした。

二、原告の損害

(1) 治療経過、後遺症

(イ) 原田外科病院入院(昭和四〇年九月一七日から同年一一月三〇日まで)

(ロ) 大阪厚生年金病院入院(昭和四〇年一一月三〇日から同年一二月二五日まで)

(ハ) 大阪赤十字病院入院(昭和四一年三月八日から同年四月二五日まで)

(ニ) 財団法人田附興風会北野病院通院(昭和四一年六月二七日から翌四二年一月一五日まで)、入院(昭和四二年一月一六日から同年二月一八日まで)

(ホ) その後引続き北野病院に通院加療中であるが、現在、頭部外傷後遺症、頸部症候群の病名で、頭痛、項部痛、眼部痛、左肩部痛、両手痛、悪心、耳鳴り、右難聴、めまいがあり、他覚的にも左肩部圧痛、大後頭神経圧痛、両側握力減退がある。さらに半年の休業治療を必要とするが、右症状は半永久的に存続する。

(2) 数額 合計 一三、二三二、八九九円

(イ) 療養関係費 計 四〇九、二一〇円

前記傷害の治療のために要した費用は左のとおり。

(A) 治療費を除く入院雑費

1 原田外科病院 四七、七〇〇円

2 大阪厚生年金病院 一七、五〇〇円

3 大阪赤十字病院 三八、三五〇円

4 北野病院 三四、七〇〇円

(B) 北野病院等通院関係費

1 通院交通費、栄養補食費その他雑費(42・2まで) 一七三、八六〇円

2 治療費(42・3~10) 一二、四三〇円(被告ら認)

3 治療雑費(右同) 九、二〇〇円

4 治療費、同雑費(42・11~43・3) 三五、八五五円

5 通院交通費(42・3~43・4) 三九、六一五円

(ロ) 逸失利益 計一〇、六二三、六八九円

原告は本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

右算定の根拠はつぎのとおり。

職業 約一〇年前から大同生命保険会社の保険外交員として勤務し、事故前八ケ月間の平均給与(賞与を除く)は一ケ月四六、四六九円であつたが、事故以後前記のような治療経過および後遺症のため欠勤がちとなり、現在では労働能力をまつたく喪失し復職の可能性はなくなつてしまつた。

収入の減額

(A) 昭和四二年九月までの分 計一三四、二六八円

1 昭和四〇年中 六四、九九一円

月次 支給額 減収額

九 四五、八八五円 五八四円

一〇 二五、〇〇〇円 二一、四六九円

一一 〃 〃

一二 〃 〃

2 昭和四一年中 二一三、三三二円

昭和四〇年度の見込み総収入は左のとおり計七〇六、八四九円である。

年間給与 五五七、六二九円

(四六、四六九・一円×一二)

夏期手当 七一、九一〇円

年末手当 七七、三一〇円

右に対し現実の支給額は計四九三、五一七円(傷病手当を含む)であつた。

3 昭和四二年一月から九月まで 五三〇、一三六円

昭和四一年度平均月収五八、九〇四円(前記七〇六、八四九円の一二分の一)×九

4 勤務先からの休業補償費追加支給および被告らの弁済

昭和四〇年九月一八日から翌四一年一月三一日までの分 二五、四一三円

昭和四一年四月から同年七月まで、および一二月分 一一六、六一九円

昭和四二年一月から同年九月までの分 四三二、一五九円

被告ら支払い分 一〇〇、〇〇〇円

以上計 六七四、一九一円

5 残額(1ないし3から4を控除) 一三四、二六八円

(B) 昭和四二年一〇月から一九年間の分

計一〇、四八九、四二一円

原告は事故当時四二才の独身者で非常に健康であつたから、本件事故にあわなかつたとすれば、厚生大臣官房統計調査部編昭和三九年簡易生命表によりなお三四年の余命が推測され、またその就労可能年数は、右生命表を基準として六〇才(六三才の誤記と認める)までの平均余命年数により、将来なお二一年と推定される。

1 ところで本件事故後すでに二年を経過したので、昭和四二年一〇月以後原告の余命年数を三二年、その就労可能年数を一九年にそれぞれ短縮し、原告の年間収入を七〇六、八〇〇円の定額とし、年五分の中間利息の控除についてホフマン式計算法により一九年に対応する現価係数一三・一一六を乗ずると、右期間内に得べかりし利益の右一〇月一日現在の価額は九、二七〇、〇〇〇円を下らないが、原告は昭和四二年一〇月から翌四三年四月までの休業補償費三三七、一七九円の支給を受けたのでこれを控除すると、残額は八、九三二、八二一円となる。

2 また原告は、本件事故当時外交員十数名の所属する班長であつたから、六三才まで三〇年間勤続して退職するとすれば、勤務先会社の退職金支給規定により三、〇三五、五〇〇円の退職金が支給されるはずである。しかるに本件事故により右勤務は不可能となつたから、右退職金額から年五分の中間利息をホフマン式計算法により控除した昭和四二年一〇月一日現在における価額一、五五六、六〇〇円を失つた。

(ハ) 慰謝料 二、〇〇〇、〇〇〇円

以上すべての事情をしんしやくすべきである。

(ニ) 弁護士費用 二〇〇、〇〇〇円

三、被告らの主張に対する反論

被告らの主張する示談契約がなされたことはあるが、それは本件受傷直後のことであり、有形無形の損害額等一切不明のうちに、被告田川の刑事責任軽減の趣旨でなされたもので、原告の本訴請求に対する和解としての効力はない。

(被告らの主張)

一、責任原因について

(1) 被告会社は運行供用者でない。

本件事故車はもと被告会社の所有であつたが、昭和三九年一二月四日訴外安藤和己に売却されており、かつ被告田川は本件事故当時被告会社の従業員ではなく、右安藤の従業員であつた。

(2) 被告田川は無過失であつた。

被告田川は事故現場を時速約二〇キロメートルで西から東に向かつて徐行中、交差点手前五メートルのあたりで、北側に駐車中の数台の車の間から突然原告が飛び出してきた。被告田川は交差点手前であるので前方を注視して徐行運転していたのであるが、なにしろ原告の飛出しが突然であり、それを確認したときには車は一・六メートルの距離に迫つていたため、ただちにブレーキをかけたが間に合わなかつたものである。被告田川としては、歩道と車道が区別されてなく、したがつて車の間を歩く歩行者の存在することを予測して減速のうえ走行していたのであるが、原告のように急に、しかも相当の勢いで飛び出してくる歩行者まで予想していなかつたのであつて、かかる無暴な歩行者までも予見して、それを回避する義務を運転者に課するのは酷というべく、このような場合の運転者には過失はないとみるべきである。

二、和解の成立(原告と被告田川間)

昭和四〇年九月一八日、原告の勤務先たる大同生命保険会社日本橋月掛営業所において、原告の雇主で営業所長たる訴外金輪剛および原告の親族たる訴外山本兼一ならびに被告田川の雇主たる訴外安藤和己立会いのもとに、左記条件で和解が成立した。

(1) 全治(後遺症を含む)に要する入院費用および治療代、付添費用一切は被告田川の負担とする。

(2) 右以外の損害金につき、示談解決金として被告田川は一〇万円を同年九月二六日と一〇月五日に各五万円あて原告に支払う。

そこで被告田川は右約定にしたがい、原告に対し一〇万円を支払つたうえ(一〇万円の授受は争いがない、原告において前記逸失利益より控除)、原田外科病院、大阪厚生年金病院等に合計二四四、四四八円を支払つた。そして原告には現在後遺症はないから、本訴請求はすべて理由がない。

三、損害について

(1) 原告は事故後三年間休業補償費を支給されるはずである(労働基準法八一条)。

(2) 原告の訴える症状がかりに存在するとしても、それは主観的なものであり将来永久に継続するとは考えられない。これが軽度となれば生命保険の勧誘は十分可能である。

(3) 本件事故は前記のとおり原告の慎重さを欠いた行動により発生したものであるから、少なくとも七〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、被告らの責任原因

(1)  被告会社(自賠法三条)

〔証拠略〕によると、つぎの事実が認められる。

(イ) 本件事故車はもと被告会社の所有であつたが、昭和三九年一二月四日訴外安藤和己に対し五六万円で売却された。

(ロ) 右売買代金は分割払いの約束であつたので、右売却後もその所有名義は被告会社に残されていた。

(ハ) 訴外安藤は右売買契約と同時に、被告会社のガラス製品を本件事故車ほか一台をもつて専属的に運搬する旨約束し、常時これらの車を被告会社内に保管しておき、毎日自己の被用運転手を同会社に派遣しその指図のもとに製品の運搬にあたらせ、その運送量の多少にかかわらず毎月二二万円の運送料を受け取り、その一部を右代金の支払いにあてていた。

(ニ) 被告田川は右安藤の被用運転手であり、安藤と被告会社間の右契約に基づき常時被告会社に派遣され、右事故車を運転し前記製品の運送にあたつていた者であり、本件事故当時も右業務に従事中であつた。

(ホ) 本件事故当時事故車の代金は完済されていなかつた。

以上認定の事実によると、被告会社の本件事故車に対する抽象的一般的な運行支配と運行利益は、訴外安藤への売却により失われることなく残存していたと認めるのが相当であるから、被告会社は本件事故車の運行供用者にあたるといわなければならない。そして後記のように、事故車の運転者に運転上の過失がなかつたとは認められないので、被告会社は自賠法三条により、原告が本件事故で受けた損害を賠償すべき義務を免れない(なお、原告と被告田川間に被告ら主張のような和解が成立したとしても、和解の成立自体は被告会社の右賠償義務に影響を及ぼさない)。

(2)  被告田川(無責)

〔証拠略〕によると、つぎの事実が認められる。

(イ) 本件事故発生現場は幅員七・二メートルの東西道路上であり、付近の交通量は人車ともにかなり多く、すぐ東方に幅員の非常に広い道路(堺筋)が南北に通じている。当時交通信号機の設備はなく、東西道路は東行一方通行で最高時速四〇キロメートルの指定がなされており、道路北側空地に公衆電話ボツクスが設置されそのすぐ西側に店舗があり、南側には原告の勤務先たる大同生命保険会社その他の建物が並んでいた。

(ロ) 被告田川は空車の事故車を運転し時速約二〇キロメートルで東西道路中央部を東進中、道路北端に東向きに駐車中の乗用車のかげから南に向かつて小走りで出てきた原告を左斜め前方約一・六メートルの至近距離に発見し、ただちに急ブレーキをかけたが及ばず車体左前部を原告に接触転倒させた。

(ハ) 原告は身長一・四六メートルの小柄な女性であるが、当日台風襲来の予報が出ていたので、班員への連絡のため勤務先から北側の公衆電話ボツクスに行き用件をすませたのち、急いで道路を北から南に横断しかけたところ、西から東進してきた事故車に接触したが、当時非常にあわてていたため東西道路上の車両の状況にまつたく注意を払つていなかつた。

以上認定の事実に基づき、被告田川に運転上の過失が認められるか否かにつき判断する。

まず、被告田川が原告を発見したのちの措置につき考えるに、時速約二〇キロメートルで進行中の自動車の左斜め約一・六メートルに原告が現われ、前方を小走りで横断しかけたものである以上、発見から接触までの間はまことに一瞬というべく、この短時間内に接触回避のための効果的な措置を運転手に期待することはできないから、原告発見後採つた措置につき被告田川に運転上の過失はないといわなければならない。

そこでつぎに、被告田川が十分注意を払つていれば原告をより早く発見できたかどうかにつき考えるに、原告をより早く発見できたかどうかにつき考えるに、原告は公衆電話ボツクスから出て道路北端に駐車中の乗用車のかげから南に向け走り出したのであるから、被告田川が左前方を注視していれば、接触地点のかなり手前で原告の姿を認めえたのではないかと疑われる。しかし、公衆電話ボツクスのすぐ西側には店舗があり西方からの見通しは必ずしも良好とは認めがたいし(被告田川は西側店舗の前に「すだれ」のような物がたてかけてあつた旨供述している)、また原告のような小柄な女性が乗用車の向こう側を小走りで横断した場合、その乗用車より高いとは認められない本件事故車の運転台からたやすくこれを確認できると断定することも困難である。そして他に、西方より時速約二〇キロメートルで東進中の被告田川において、右電話ボツクスから南に向け小走りで前方を横断しようとしている原告を、十分安全な距離を残して発見しえたと認めるに足りる証拠はないので、被告田川が原告を前記至近距離に発見したことをもつて、同被告に前側方不注視の過失があると断ずることはできない。

最後に事故車の速度の点につき考えるに、最高時速が四〇キロメートルと指定されている本件道路においても、事情によつては減速進行すべき注意義務があることはいうまでもなく、ことにあまり広くない本件道路北端に自動車が駐車しているような場合には、突然そのかげから人が飛び出してくることもありえないわけではないから、事故の発生を未然に防ぐためある程度減速すべきであるけれども、被告田川は時速約二〇キロメートルに減速して進行していたものであり、本件の場合これ以下に減速すべき義務があるとは認めがたいので、右速度の点に過失があるともいいえない。

以上を要するに、事故車の運転手被告田川に運転上の過失があつたか否かは、証拠上いずれとも認めがたいというほかはないので、被告田川は原告が本件事故で受けた損害を賠償すべき義務を負わない。

二、原告の損害

(1)  治療経過、後遺症

ほぼ原告主張の事実のほか、現在のところ後遺症のため読み書き計算が困難であり、長時間の歩行は苦痛を伴うので就労することができず、週約二回の通院加療のため外出する以外はほとんど自宅で寝たり起きたりの生活を送つているが、家事労働のような軽易な労務はある程度可能であることが認められる(〔証拠略〕もこの認定を左右するに足りない)。

(2)  数額 合計 五、一二四、七三八円

(イ) 療養関係費 計 六七、六三〇円

(A) 治療費を除く入院雑費 五五、二〇〇円

原告主張のような雑費を認めるに足りる証拠はないが、入院加療中治療費以外に相当な雑費を要することは経験則上明らかである。そこで原告の前記受傷部位程度、入院期間(計一八四日)等に照らすと、入院一日につき三〇〇円の雑費をもつて、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるべきである。

(B) 北野病院等通院関係費

2、治療費(42・3~10)一二、四三〇円(争いがない)

右のほかは証拠上認められない(甲二七号証はたやすく信用しがたい)。

(ロ) 逸失利益 計 二、八五七、一〇八円

原告の職歴、事故前八ケ月間の平均給与(四六、四六九円)は原告主張のとおり認められる(〔証拠略〕)。

収入の減額については、つぎのように認められる。

(A) 昭和四二年九月までの分 一三四、二六八円

原告主張のとおり(〔証拠略〕)。

(B) 昭和四二年一〇月以後の分二、七二二、八四〇円証人松坂秋郎、金輸剛の各証言、原告本人尋問の結果、松坂証言により成立を認める甲二一号証によると、原告は昭和三一年に大同生命保険会社に保険外交員として入社、以後その収入により独身生活をしていたこと、本件事故当時四二才の健康体であり、右会社日本橋月掛営業所において勧誘員十数名の班長としてもつぱらその指導監督にあたつていたので、その地位は通常の保険勧誘員に比しかなり安定していたことが認められる。

1 原告は、本件受傷による後遺症のため労働能力を将来にわたり完全に失つた旨主張するが、そのように認めるに足りる証拠はない。しかし、前認定の治療経過および後遺症の程度に照らすと、原告は少なくとも昭和四二年一〇月以後五年間は復職不能と認めるのが相当であり、かつ、本件事故により受傷しなければ、前認定の年令、健康状態、職務内容等に照らし少なくとも右期間内は従前どおりの収入(前記見込み年収七〇六、八〇〇円程度)を得ることができたものと推認される。

そこで右五年間の逸失利益現価(昭和四二年一〇月一日現在)を計算すると左のようになる。

(算式)

七〇六、八〇〇円×四・三二九四(年利五分、五年のライブニツツ係数)=三、〇六〇、〇一九円(円未満切捨)

中間利息控除法につき付言するに、通常用いられるホフマン法は貨幣資本が単利法により利殖されることを前提とする控除法であるところ、現代においては郵便貯金や銀行預金にもみられるように、貨幣資本は複利法により利殖されるのが最も普通であるから、ホフマン法はその前提を欠きこれを用いる合理性に乏しい。そこで貨幣資本が複利法により利殖されることを前提とする控除法たるライブニツツ法を採用した(ジユリスト三六三号五六ページ以下、判例タイムズ二一二号一三〇ページ以下参照)。

ところで原告は、昭和四二年一〇月から翌四三年四月までの休業補償費三三七、一七九円の支給を受けたのでこれを控除する旨自陳するので、残額は二、七二二、八四〇円となる(被告会社は、原告の本件受傷は業務上のものであるから、受傷後三年間は休業補償費を支給されるはずである旨主張するが、原告の右自陳額以上を認めるに足りる証拠はない)。

2 原告の主張する退職金の喪失による損害については、本件事故がなければ六三才までなお二〇年以上前記保険会社に勤続しえたと認めるに足りる証拠がないのみならず、証人松坂秋郎の証言および甲二二号証によるも、同号証(退職金改定交渉速報)記載どおりの退職金が常にそのまま支給されるとは認めがたいので、結局その額の証明がないことに帰する。

(ハ) 精神的損害 二、〇〇〇、〇〇〇円

特記すべき事実は左のとおり。

(A) 入院期間約六ケ月。

(B) 通院期間約二年。

(C) 前記後遺症の程度。

(D) 将来の収入面に対する多大の不安。

(ニ) 弁護士費用 計 二〇〇、〇〇〇円

(A) 着手金 五〇、〇〇〇円

(B) 謝金 一五〇、〇〇〇円

(以上の損害額、本件事案の内容、大阪弁護士会報酬規定)

(ホ) 以上の損害に対し充当すべき弁済がなされたことを認めるに足りる証拠はない(前記逸失利益より控除した弁済金一〇万円を除く)。

三、原告の過失(過失相殺約五〇パーセント)

すでに認定したように、原告は本件道路北側の公衆電話ボツクスから出て道路を南に横断するにあたり、交通量の多い道路であるのに左右の安全を確認することなく、道路北端に駐車中の乗用車のかげから小走りで路上に飛び出したものであるから、本件事故の発生については原告に重大な過失があるというべく、その過失の程度をしんしやくすると、被告会社が原告に対し賠償すべき金額は、前記各損害(弁護士費用を除く)の約五〇パーセントたる二、五〇〇、〇〇〇円と弁護士費用二〇〇、〇〇〇円の合計二、七〇〇、〇〇〇円にとどめるのが相当である。

四、結論

被告会社は原告に対し、二、七〇〇、〇〇〇円および内金二、五五〇、〇〇〇円に対する昭和四三年四月二五日から、残金一五〇、〇〇〇円(前記謝金)に対する同年六月二七日(本判決言渡日)から各支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならないが、被告田川は本件事故による原告の損害を賠償すべき義務を負わない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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